大判例

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奈良地方裁判所 平成4年(行ウ)12号 判決

原告

日宝土地建物株式会社

右代表者代表取締役

任田徳和

右訴訟代理人弁護士

北島元次

被告

奈良市長 大川靖則

右指定代理人

島田睦史

川井忠雄

前川典和

西川裕

西仲光弘

前川宏充

佐々木繁

東義之

岡秀昭

参加人

村武彰一

右訴訟代理人弁護士

中津吉正

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事実及び理由

第三 争点に対する判断

【訴えの適法性について】

一  原告適格、訴えの利益について

1  行政事件訴訟法九条は、取消訴訟の原告適格を定めているが、同条にいう当該処分の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」とは、当該処分等により自己の権利利益若しくは法律上保護された利益を侵害され、又は必然的に侵害されるおそれのある者をいう。同法三六条は、無効等確認の訴えの原告適格について定めているが、同条にいう当該処分の無効等の確認を求めるにつき「法律上の利益を有する者」の意義についても、右の取消訴訟の原告適格の場合と同様に解するのが相当である。(最高裁判所平成四年九月二二日判決・民集四六巻六号五七一頁)

2  本件開発許可は、【争いのない事実等】記載のとおり本件開発許可に関する開発区域内の甲地の権利者である原告から同意を得たものとして開発許可がされている。

開発許可を受けた開発区域内の土地を所有している者は、当該開発行為について同意していない場合には、法三七条二号により開発工事完了の公告がされるまでの間はその権利の行使として建築物の建築ができる。しかし、当該開発行為について同意があるものとして開発許可がされている場合には、当該開発区域内に土地を所有している者は開発工事完了の公告があるまでの間、法三七条二号が適用されず、同条本文が適用されるため、建築物の建築等ができない。また、右公告があった後は、同意の有無にかかわらず、法四二条一項が適用されるため、原則として、当該開発許可に係わる予定建築物等以外の建築物又は特定工作物を新築、新設、改築することができなくなる。

原告のように開発区域内の土地を所有しているが、当該土地が当該開発工事を行う土地には含まれていない場合には、その権利者が関与しないところで工事が完了し、その公告が行われ、建築禁止の規制がかかることになる。

これに対し、被告は、<1>開発行為に同意したことにより建築制限を受けるとしても、それは開発区域内の者が開発行為に同意をした効果であって、開発許可の直接の効果ではない、<2>開発許可に係る開発行為に関する工事が完了したときは、開発許可が有する右の工事ができるという本来の法的効果は消滅するから訴えの利益がない、と主張する。しかし、本件は、当該同意の有無が争われているものである上、開発区域内の土地の所有者は、開発工事完了の公告があった後は原則として建築物の建築が禁止されることとなる(法四二条一項)ところ、右制限は開発許可によって生ずるもので、かつ、その効果は継続しているというほかはないから、被告の右主張は採用できない。なお、被告が引用する判決〔編注、最高裁平成五年九月一〇日第二小法廷判決・民集四七巻七号四九五五頁〕は、開発区域外の土地所有者等が開発許可の取消しを求めたものであり、本件とは事案を異にする。

3  したがって、原告は、当該処分等により「自己の権利利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者」であるから、当然に原告適格を有し、かつ、訴えの利益もあるというべきである。

二  一部無効確認の適否について

被告は、甲地のみに係わる開発許可の無効を認めると当初の開発許可と別の範囲の開発区域に係る開発許可処分に変更する結果となり、単なる開発許可の範囲の変更にとどまらないことになるから、一部無効を認めることは申請者の申請権、行政庁の審査・判断権を奪うことになると主張する。

しかし、当該開発許可の対象となった土地の一部につき許可に瑕疵があるときには、当該開発許可が不可分のものであって全部にその瑕疵が及ぶとは直ちに考え難い上、処分庁としては、行政訴訟により当該開発許可の対象となった開発区域の一部が無効とされた段階で、残部の開発区域のみで開発許可の処分要件に適合しているか否かの点の審査をし、右審査の結果、処分要件に適合しない場合には処分全体の取消し等を行えば足りるものであり、申請者としても、残部に対する許可のみでは目的を達し得ない場合には、その申請自体の取下げをすればよいのであるから、裁判所が開発許可の一部が無効であることを確認する旨の判断をしたからといって、申請者の申請権、行政庁の審査・判断権を何ら奪うものではない。したがって、当該開発許可の対象となった土地の一部に係わる許可の無効確認を求める訴えも適法である。

【本案について】

一  原告の同意の有無とこれに対する被告の判断について

1  〔証拠略〕によれば、次の事実が認められる。

(一) 参加人は、平成二年三月二三日、甲及び乙地を敷地とし、宅地造成を伴わないとする建築物の建築確認申請をし、同年四月一八日、奈良市建築主事は、建築確認をした(〔証拠略〕)。甲地を右建築物の敷地とする右建築確認につき原告は関与していない。

(二) 参加人は、平成二年一一月ころ、乙地につき擁壁工事等の宅地造成工事(以下「本件工事」という)を澤田組に発注し、右工事は平成三年四月ころ完成した。右工事に際し、参加人は、開発許可を受けていなかった。本件工事が完成したころ、奈良市都市整備部指導課(以下「市都市整備部」という)は、本件工事には開発許可が必要であるとして参加人に行政指導した。参加人は、右指導を受けて、同年五月一四日、乙地のみを開発区域とする開発許可申請をした(〔証拠略〕)。右開発許可申請には、本件同意書を含む乙地の隣接地の所有者である原告、松川元信、松川康子及び石崎言の「開発行為に関する工事施行の妨げとなる権利者の同意書」と題する各書面(〔証拠略〕)が添付されていたが、印鑑証明書の添付はなかった。

本件工事の施行者である澤田組は、同年四月中旬ころ、原告から本件同意書の交付を受けるにあたり、原告に対し、隣接地所有者としての同意書である旨の説明をしたため、原告はこれに応じて本件同意書を澤田組に交付した。また、市都市整備部も、乙地のみを開発区域とする開発許可申請であったので、本件同意書を含む右各同意書を隣接地所有者の同意として認識していた。

(三) 右開発許可申請の審査の過程で、建築確認された敷地の範囲と開発申請の開発区域との範囲が異なることが判明したため、参加人は、市都市整備部の指導に従い、開発区域として甲地も含める旨の訂正をした。市都市整備部では、昭和六一年五月一三日建設省経民発第二〇号の建設省通達(〔証拠略〕)の一(1)<3>に沿って、開発区域内の権利者の同意の意思確認のため印鑑証明書の添付を申請者に要求しており、参加人に対しても原告の意思確認のため原告の権利者としての同意書と印鑑証明書を提出するように指示した。しかし、澤田が、原告から開発区域内権利者としての同意をとっていること、既に本件同意書が提出されているから更に原告の同意書を提出する必要はないこと、既に甲地をも敷地とする建築確認がされているのであるから開発許可も当然認められるべきであること等を申し立てたため、被告は、本件同意書を法施行規則一七条一項三号に規定する法三三条一項一四号の相当数の同意を得たことを証する書類としてそのまま流用し、原告から区域内権利者としての同意があったものとして、本件開発許可をした。

しかし、原告が本件同意書を澤田に交付したのは、(二)記載のとおり隣接地所有者としてのものであり、原告は、開発区域内に甲地が入ることにつき同意をしていなかった。

2  以上の事実によれば、原告は本件開発行為につき区域内権利者としての同意をしていない。そして、建設省通達では意思確認のため印鑑証明書の提出を求めており、市都市整備部でも右通達に沿った取扱をしているところ、原告の印鑑証明書も被告に提出されていない。本件同意書は、当初は隣接地所有者の同意書として被告に提出され、被告もその旨を認識していた。しかるに、被告は、澤田に言われるがままに、甲地が開発区域に含まれることについての原告の意思確認や原告が建築確認につき建築物の敷地としての同意をしたかの確認もしないまま、本件同意書を法施行規則一七条一項三号に規定する法三三条一項一四号の相当数の同意を得たことを証する書類としてそのまま流用し、本件開発許可をしたものである。

二  法三三条一項一四号が「相当数の同意」を開発許可の基準としたのは、開発者が開発行為及び開発行為に関する工事をしようとするに際し、開発行為をしようとする土地及び開発行為に関する工事をしようとする土地のそれぞれについて、これらを行うために必要な権原を取得しなければならないことは当然であるが、許可が得られるかどうか不明な段階で当該開発行為等の妨げとなる権利を有する者全員の同意を要件とするのは、開発行為の申請者に対して過大な経済的危険を負担させることになるおそれがあるからであると考えられる。

ところで、被告は、本件開発許可につき、権利者の人数の三分の二の同意を得ており、かつ、同意を得ている地積は三分の二をわずかに下回るにすぎないと主張する。しかし、〔争いのない事実等〕一記載のとおり、前者についてはともかく(もっとも、原告以外に本件開発行為につき同意している者は参加人の妻で、実質的には本件開発区域内の土地につき権利を有する者は参加人と原告の二人であるという余地もある)、また、後者については、原告所有の甲地の地積は本件開発許可における開発区域のうち約四三パーセントにも及び、同意を得ている地積が三分の二をわずかに下回るとはいえないことからして、被告の主張は採用しない。

法三三条一項一四号の趣旨が前記のとおりであり、法三七条二号が、当該開発行為の工事を行う土地の区域内に権利を有する者の同意がない場合には、他の者が開発許可を受けたことにより右権利者に何らかの建築制限が課せられるのは不当であることから、開発工事完了の公告があるまでの間、その権利の行使として建築物を建築できると定め、法四二条一項が、開発工事完了の公告があった後は、右区域内に権利を有する者の同意の有無を問わず、一律に建築制限を課していることからすると、法は、本来、開発行為の完了までに右権利者全員の同意を得ることを期待、予定していると考えることができる。

本件のように開発区域内ではあるが開発工事がされる土地に含まれていない場合には、当該土地の所有者の関与なしに、当該開発工事が完了し、その公告がされることがあり得ることを考えれば、開発区域内の権利者としての同意の有無は極めて大きな法的効果を発生させるものであるから、これを誤認した場合、その瑕疵は重大であるというほかない。

三  結局、本件開発行為に区域内権利者としての原告の同意があるとの被告の判断には重大な事実誤認がある。そして、その誤認は、意思確認のため市都市整備部が建設省通達に沿って提出を要求している印鑑証明書が本件同意書に添付されていないこと、本件同意書が当初は隣接地所有者の同意書として提出されていたこと等からして明白であるということができる。したがって、本件開発許可中甲地に係わる部分には、重大かつ明白な瑕疵があるから、無効であるというべきである。

第四 以上の次第で、原告の請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九四条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 前川鉄郎 裁判官 井上哲男 近田正晴)

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